鈴鹿市文化財ガイド

　三日市に、伊勢における真宗弘法の根拠地が置かれたのは、貞永元年（1232）に親鸞聖人が顕智房・善然房らを連れて関東を発し、京都へ帰られたころとされている。善然上人坐像が作られたのもこれよりあまり隔たった時代ではないと考えられる。

　太子寺に祀られている善然上人坐像は眼を半眼に開き（玉眼）、両手に数珠を持って、端然と安坐し、その風貌はまことに穏やかで今にも語りかけてくるような親しみを感じさせる。

　寄木造で像高92cm、面貌をはじめ軽やかな衣の袖口の感じ等、極めて写実的で、鎌倉時代の肖像彫刻の優品といえる。

　蓮華座（後補）の上に結跏趺坐＜けっかふざ＞する。左手の人差し指を立てて、それを右手で包むような形、つまり、智拳印＜ちけんいん＞を結ぶ。これも金剛界の大日如来である。宝冠はないが、髪は髺＜まげ＞に結い上げて天冠台を載せ、臂釧＜ひせん＞、腕釧＜わんせん＞をつけ、左肩から条帛＜じょうはく＞を懸けて、腰部から下は裳＜も＞（裙）をまとう。やや前に傾き加減であり、目線も少し下に下がる。

　白毫＜びゃくごう＞には水晶を入れ、彫眼。まぶたの彫りなども丁寧である。檜材の寄木造で像高148cm。穏やかな感じを受ける。

　全体的に前記の大日如来とほとんど変わるところなく作られている。平安時代後期の作。

　一般に如来像の頭は螺髪＜らほつ＞、着衣も質素で、すっきりした出家者の姿であるが、大日如来は宇宙の最高尊者という性格を持ち、それに相応して王者の姿、つまり、宝冠を戴き、装身具で身を飾る姿で表される。

　妙福寺の大日如来坐像は、髪を美しく髺＜まげ＞に結い上げて天冠台を載せ、瓔珞＜ようらく＞や宝冠はないが、臂釧＜ひせん＞、腕釧＜わんせん＞をつけている。結跏趺坐＜けっかふざ＞して智拳印＜ちけんいん＞を結んでいるので、金剛界の大日如来である。知拳印の左の拳を外へ向けているのは珍しい。

　白毫＜びゃくごう＞には水晶を入れ、彫眼。檜材の寄木造で像高149cm。衣文＜えもん＞のひだの流れも滑らかで、物静かな顔の表情は定朝様式を伝えている。平安時代後期の作。

　妙福寺は山号を薬王山といい、本尊は薬師如来。真言宗の寺院である。この釈迦如来坐像は、もと、この南の堂山徳昌院に祀られていたが、戦国時代の兵乱による火災のため、大日如来坐像2体（重文）とともに、当寺に移されたと伝えられている。

　像高は109cm、檜材の寄木造で、彫眼。肉髺珠＜にくけいしゅ＞、白毫＜びゃくごう＞は水晶を入れていたと思われるが抜け落ちて今はない。偏袒＜へんたん＞右肩で結跏趺坐＜けっかふざ＞の姿。

　右手は施無畏印＜せむいいん＞をむすび、左手は膝の上のにおいて与願印＜よがんいん＞を結ぶ。衣文＜えもん＞は形式化しているが、肉付きは豊かである。平安時代後期の作である。

　かつて神宮寺の本堂に、薬師如来坐像とその両側に持国天（重文）と多聞天（重文）が祀られていたが、現在は改修された収蔵庫に、厨子に納められた薬師如来立像（重文）を中心にして、向かって右側に持国天、左側に多聞天が安置されている。

　この多聞天は2匹の邪気を踏まえ、右手は曲げて腰に当てて剣を持ち、左手には多聞天の特徴ともいうべき宝塔を捧げ持つ。兜＜かぶと＞をかぶり、鎧＜よろい＞を着けた武将の姿で、忿怒＜ふんぬ＞の表情などは持国天と同じ作風で堂々たる量感がある。

　総高184cm、楠材の一本造。彩色はない。平安時代後期の作。

　須弥山の四方を守護するのが四天王であり、その中で東方を守護するのは持国天である。いずれも古代中国の武将のスタイルである。

　神宮寺の持国天立像も甲冑＜かっちゅう＞をつけて剣を持ち、足下には2匹の邪鬼を踏みつけている。目玉が飛び出さんばかりの忿怒＜ふんぬ＞の形相をあらわすが邪鬼の表情にはむしろユーモラスなところがある。全体としては堂々たる量感がある。

　左袖口あたりに翻波式＜ほんぱしき＞彫法が見られるなど平安後期とすれば早い時期の作であろう。頭頂から台座までの総高179cm。檜材の一本造である。

　美しく並んだ螺髪＜らほつ＞、やや伏目の彫眼とつつましやかな口元、ふっくらとした童顔はいわゆる「両輪満月の相」で優しさがただよう。右手は施無畏印＜せむいいん＞を結び、左手は下げて薬壺を持つ。平安時代の典型的な薬師如来立像である。両肩から腹部へ、さらに足元へ流れる衣文＜えもん＞は彫り浅く、全体に優雅さがただよって藤原期の特色を示している。

　像高81cm、檜材の寄木造。平安時代後期の優作。

　千手観音が実際に千本の手を持つ例は少なく、ふつうは胸前の合掌手のほかに左右各20手、都合42手を作って「千手」とみなし、合掌手をのぞくそれそれの手に特定の持物＜じもつ＞をとらせる。林光寺本尊の場合もこれで、頭部には化仏＜けぶつ＞のほかに10個の頭上面を載せる通例の十一面千手観音である。

　顔は丸顔で優しく、節度のある衣文＜えもん＞の表現も穏やかで美しい。定朝の流れを汲む中央の仏師によって造られたものであろう。平安時代後期、12世紀の優品である。像高さ127cm、檜材の一本割矧＜わりは＞ぎ造、彫眼。頭上面、脇手、持物、台座、光背等を補作するが、後補は数次にわたるものと思われる。

　秘仏であるが、毎年8月9日の深夜、11時から翌10日の午前1時までの２時間、つまりこの日の子＜ね＞の刻に限って開帳される。その行事は「十日観音」あるいは「子の刻参り」と称されている。

　府南寺の金剛力士像は、向かって左に口をあけて立つのが阿形、右に口を結んで立っているのが吽形で、通例とは逆の配置である。阿形像203.9cm、吽形像206cm、檜材の寄木造で玉眼を嵌入する。南北朝時代の作といわれ、県下に少ない金剛力士像の優作である。

　伊奈冨神社は「伊奈冨神社御縁起」によると、祟神天皇の霊夢によって創立され、貞観7年（865）従四位下、文永11年（1274）正一位に昇叙＜しょうじょ＞した奄芸郡首位の式内社である。

　本像は像高52.7cm、樟の一本造。木芯を中央に込めて、内刳り＜えぐり＞は全くしていない。所どころに乾漆による塑形が認められ、衣文の峰などに線状の切金が置かれている。

　頭部に幅の広い冠をつけ、両肩前に纓＜えい＞を垂らす。目をこらし、閉口する顔を僅かに斜めに向け、赤い袍＜ほう＞と袴＜はかま＞を身につけ、石帯を締める。右足を外にして結跏趺坐＜けっかふざ＞風に坐る。胸前で拱手＜きょうしゅ＞する両手には笏＜しゃく＞を差し込んだと思われる穴があけられている。冠の制、面貌＜めんぼう＞、一本造に乾漆併用の技法等から、平安時代前期の作と考えられている。

　三面の大きさには微小な差はあるが、おおむね縦77cm、横53cmである。檜材。黒漆塗、文字は金で、「正一位大明神」がそれぞれ楷書（大宮）、行書（西宮）、草書（三大神）と書体をかえて書かれている。

　裏面にもそれぞれ次の銘文が刻まれている。
文永十一年申戌二月廿三日庚午書之
正三位藤原朝臣経朝

　経朝（1215～1276）は、藤原行成の流れを汲む世尊寺＜せそんじ＞流書道の名家である。字は薬研＜やげん＞彫りで鋭く掘り込まれ、縁にはハート形、半円形の孔をうがっている。

　文永11年（1274）は、10月に第一回蒙古襲来をむかえる年である。この風雲急を告げる時世とこの扁額には何か関係があるかも知れない。

　子安観音寺の山門をくぐると、本堂の左側高さ1ｍの石垣で囲まれた盛土がある。そこに桜が植えられている。

　この桜は、サトザクラの一品種で、真夏以外は梢のあちらこちらに、ちらほらと花をつけ、四季花が咲くところから「不断桜」と名づけられて、子安観音寺の霊木となっている。

　天平宝字年間（757～765）、雷火のため消失した伽藍跡に芽生えた桜と伝えられている。昭和21年（1946）8月30日の本堂火災で、木もひどく痛めつけられ、また昭和34年（1959）の伊勢湾台風で主幹が折れたが新芽によって生長を続けている。

　現在の不断桜は2株あり、南側の株は根元より大小9本に枝分かれしている。樹高は約5m、枝は東西に7.5ｍ、南北に11.5ｍ広がる。

　飯野地区市民センターから創徳中学校へ通じる道路の南側に、クロマツやアカメガシワ等が茂っている所がある。そこが金生水沼沢植物群落である。

　湿原は、旧鈴鹿川砂礫層と平野部が交叉するところにある。湿原の南西部の砂礫層から湧出する清水が、地子町、西条、飯野寺家町の３地区の稲作用水と共に、湿原の重要な水源となっていいた。

　湿原の面積は約7000m²。植物の種類は、当地の発見者である松山外治郎氏の調査では、72科222種が報告されている。

　金生水は、暖地性植物を寒地性植物との交錯地点のため、沼沢植物の種類が豊富である。この狭い金生水に沼沢植物が群生している点が、植物学上重要であって、特に植物の種類は指定されず、金生水沼沢植物群落を構成している植物全体が重要である。周辺の開発による湿原の変質化が心配される。

　国分寺（僧寺・尼寺）は、天平13年（741）聖武天皇の詔によって国ごとに造営された寺である。その詔には、「其れ造塔の寺は、また国の華たり。必ず好処を択＜えら＞びて、実に長久にすべし。」とある。現在、その建物はなくなり、田畑となっている。史跡を示す標柱が立っているあたりが、講堂跡と推定されていて、周囲には当寺の瓦の破片が多く散らばっている。

　大正11年の史跡指定以後、発掘調査は行われず、正確な寺域や伽藍配置は不明であった。市教育委員会が昭和63年から進めている発掘調査により、僧寺の寺域は、東西178ｍ、南北184ｍの築地塀＜ついじべい＞（土を付き固めて造った塀）に囲まれた区域であること、南門跡と推定される遺構が確認された。今後調査が進めば、内部の建物跡やその配置も判明するであろう。尼寺跡は、ここから東へ400ｍの国分町の集落にあったと推定されている。

　国府町の南、鈴鹿川右岸の台地にある。南西に向かって築造された雄大な前方後円墳で、西の野1号墳にあたる。墳丘は全長63ｍ。前方部幅48ｍ、高さ6.5ｍ、後円部径38ｍ、高さ6mで前方部の方が高く幅も広い。後円部頂上は盗掘坑のため、原形が崩れ低くなっている。東側くびれ部に、明瞭ではないが、「造り出し」らしいものがある。周溝と外堤（長さ90ｍ・幅73ｍ）が盾形に取巻く形は、畿内の天皇陵に近い形式である。

　時期は古墳時代後期の6世紀初頭とされるが、これより少しさかのぼる可能性もある。盗掘が行われながら、出土品は何も伝わっていない。

　大形古墳の一般的呼び名の大塚に日本武尊伝説が付会して王塚となったのであろうか。鈴鹿川流域を支配した代表的な地方君主の墳墓であり、それにふさわしい形と大きさである。

　北東部に陪塚＜ばいちょう＞の小円墳（径8m・高さ1.5ｍ）一基がある。

　広瀬町の南西（字仲土居・西野々・長塚・荒子）から亀山市にかけて、奈良時代の瓦が散布する大規模な遺跡である。

　昭和32年（1957）、京都大学藤岡謙二郎氏の調査により、大型の礎石建物跡が検出され、鈴鹿関を警備する軍団跡ではないかと全国的に注目された。

　平成5年度（1993）から鈴鹿市教育委員会が発掘調査に着手して、基壇状に残る正殿、後殿とこれらを結ぶ軒廊＜こんろう＞部分を検出し、これにより伊勢国府の政庁跡であることが始めて確認された。

　瓦の文様には難波宮系の重廓文軒平瓦、重圏文軒丸瓦を主体とするほか、平城宮と同笵の均整唐草文軒平瓦が出土している。

　鈴鹿川対岸には現国府町があり、平安時代も後半になって、政治的な理由によりここから移動したものと考えられている。

　鈴鹿市が昭和38年度より実施してきた伊勢型紙伝承者養成事業の修了者が中心となり、平成3年（1991）11月に伊勢型紙技術保存会が組織された。その後、当保存会は平成4年（1992）2月に県の無形文化財に、平成5年（1993）4月には国の重要無形文化財「伊勢型紙」の保持団体に認定された。現在は会員が中心となり、重要無形文化財「伊勢型紙」の指定要件に基づいて技術の錬磨と伝承者育成に努めている。

　子安観音として知られ、近世には和歌山藩の庇護を受けて伽藍も整備されたが昭和21年に諸堂を焼失し、仁王門だけが残った。仁王門は入母屋造、本瓦葺、三間一戸の楼門で、妻飾りは又首＜さす＞組、上下層とも三手先組物とする。元禄16年（1703）建立。伝統的な和様の手法による本格的な構成の門であり、三重県内の同種の門の中では建立年代の早いものとなる。昭和57年（1982）に解体修理が行われた。

　もと、神戸藩の江戸藩邸にあったが、神戸城内に移築されたと伝え、その後も移転を重ね、昭和51年（1976）に龍光寺に移築復元整備された。神戸藩主本多忠統＜ただむね＞が藩邸内に営んだ亭に由来する「坐忘亭」の亭号を持つ。また忠統に肥後細川家から贈られたとの伝承がある。寄棟造、銅板葺の数奇屋＜すきや＞風書院造で、概ね二列に座敷を配し、八畳二室を主室とし、二方に縁をめぐらす。

　石薬師宿の名の由来となった石造薬師如来を祀る堂である。寄棟造、本瓦葺で、桁行三間、梁行四間の堂の四面に縁をめぐらし、正面に向拝一間を設ける。寛永6年（1629）建立。三重県内では例の少ない近世初期の寺院本堂である。当初は堂内を内陣と外陣に二分していたが、寛政年間に屋根、内陣などの修理改造を行い、この時に内外陣境の結界（けっかい）を撤去して、現在のように堂内を一室に改め、また結界の建具を正面の建具に転用している。平成３～４年（1991～1992）に修理が実施された。

　法雲寺は真宗高田派の寺院である。この薬師如来坐像はもと大久保徳王寺の本尊であったが、明治初年に同寺が廃寺になって法雲寺の薬師堂に移されたと伝えられている。

　右手は薬指と中指を少し曲げて施無畏印＜せむいいん＞を結び、膝上に置く左手には薬壺を載せている。細く見開いた目、左肩から流れる美しい衣文＜えもん＞、おおらかな姿態に藤原期の作風が感じられるものの、肉のしまった顔や胸および腹、さらに体全体から受けるどっしりと落ちついた力強さはむしろ、鎌倉時代に近いことを感じさせる。白毫＜びゃくごう＞と肉髻珠＜にっけいしゅ＞に水晶を入れている。半丈六の堂々たる力作である。

　像高142cm、彫眼、漆箔、檜材の寄木造。平安時代末期の作。

　男神像7点、女神像3点、童子像2点、狛犬＜こまいぬ＞その他3点、尉面＜じょうめん＞2点、獅子頭1点の計18点が一括指定されている。

　尉（翁）面は「式三番」に用いる白色尉と狂言方が「三番叟」に用いる黒色尉とがあり、ともににこやかな表情である。室町時代の作。

　獅子頭には「弘安三年（1280）庚辰＜かのえたつ＞正月稲生三大神」の墨書があり、力強い一文字の眉、丸い大きな眼、巨大な獅子鼻、頬ひげの巻き毛などに時代の特色がよくでている。鎌倉時代の作。少し小さいので、行道面であろうといわれている。

　それ以外の15点は、いずれも10～25cm程度のもので、中には法隆寺の聖徳太子7歳の時の像を思わせるものがある。いずれも檜材を使用、彩色している。平安時代後期から鎌倉時代の作。

　神宮寺というのは、奈良時代以降、神仏習合思想の発展の中で生まれ、神社の境内かその付近に立てられた神社付属の寺院のことである。明治維新の神仏分離令によって、独立して寺院になったものもあるが、多くの堂塔伽藍＜がらん＞は破壊された。

　福満山神宮寺は伊奈冨神社の神宮寺であり、この男神坐像も、もと伊奈冨神社に祀られていた淳和＜じゅんな＞天皇像といわれている。風貌温厚、衣冠束帯でひげのある老男神坐像である。頭部の仕上げは丁寧であるが、体部、膝などは簡略化され、手は後補である。像高71.5cm、平安時代後期の作である。

　その他、当寺の収蔵庫には未指定であるが不動明王などの彫刻も多い。

　高髻を結い、宝冠を戴き大衣＜だいえ＞をまとう釈迦如来は「宝冠の釈迦」といわれ、鎌倉時代から室町時代にかけて禅寺などで造られたようである。

　像高81cm、檜材の寄木造、金泥彩。

　白毫＜びゃくごう＞には水晶をいれ、玉眼。通肩の衲衣＜のうえ＞、瓔珞＜ようらく＞をかけて右足外の結跏趺坐＜けっかふざ＞、法界定印を結ぶ。胎内の朱書銘に「貞和＜じょうわ＞二年（1346）七月十七日始之。大仏師堯円」とある。堯円＜ぎょうえん＞は京都三条仏所に属したいわゆる円派の仏師で、本像の他にも京都医王寺の木造薬師如来坐像（元享元・1321）などがあり、またいくつかの事蹟が古記録に見える。

　現在は真言宗福満山神宮寺の末寺であるが、創建当時は臨済宗の寺であった。

　社伝によると、菅原神社は久安3年（1147）の創立で、安置する天神像は、菅原道真の近臣三重郡采女の豪族舎人＜とねり＞兵衛兼重が道真公自身の像を賜ったものであるという。

　この天神坐像は菅原神社、つまり「国分の天神さん」の御神体として祀られている。
冠を戴き、胸前で手を組み、笏＜しゃく＞を持つ。襟の高い服を着ている。伏目のまぶたはややふくれ気味で、長いひげなど温容あふれる風貌がよく表されている。

　写実的な顔に比べて服の部分は簡略されているが、全体の静かな姿には藤原期の気分が感じられる。両袖から膝のあたりは虫害のため腐食が甚だしい。

　像高52cm、檜材の一本造。部分的に後世の手が入っているようであるが、平安時代末期の作であろうか。

　岸岡町の光勝寺の本尊。像高127.6cm、銅造の大型の善光寺式阿弥陀三尊（一光三尊）の中尊で、現在は、両脇侍と大光背・須弥座が失われている。

　製作年代は鎌倉時代後半（13世紀末頃）。善光寺式阿弥陀三尊像の中でかなり大型の像であり、また、同時代の銅像としても比較しても大型で、鋳造技法も優れている。

　桃林寺は禅宗東福寺派に属し、入道岳の山麓に位置する景勝地にある。この銅鐘は本堂の南縁側につるされ、高さ74.5cm、口径54.5cmで県下最古のものである。

　その鐘銘の一節には、「尾州海西郡門真庄津嶋村、補陀山常楽禅寺、洪鐘一口」、「担那道本庵主、大工和州葛城友光、永享八年丙辰十一月廿四日」とある。もと尾張津島の常楽寺の鐘で、永享8年（1436）道本庵主なる人物を檀那として大和の葛城友光が鋳造しており、県下金工史の上で貴重な銅鐘といえる。

　その後、その追銘によると、この鐘は戦国時代に軍卒＜ぐんそつ＞によって尾張から伊勢に運ばれ、市内神戸の龍光寺鐘楼にあり、文化14年（1817）龍光寺新鐘鋳造に際し、その末寺の桃林寺に移された。

　高さ18.9cm、口径8.7cm、胴が張った広口の丸壺に3本の足を付け（1本欠損）、紐を3段に取り付けた形である。墨書は次のとおり読める。

　嘉禎＜かてい＞二年（1236） 丙申白子 八郎兼丈
　□士為向 □所奉 之也

　白子の武士が、この社に祈願をこめ奉納したものであろう。知多半島の常滑焼と思われるが、年代の明らかな点から貴重なものといえよう。

　この寺は高野山真言宗に属し、子安観音の寺として知られる。銅燈籠は元禄年間建立の仁王門（県文）を入った正面にあり、高さ3mで、笠、火舎＜かしゃ＞、中台、竿、反り花基礎の5つの部分をそれぞれに鋳造し組み合わせられており、手堅い作風と落ち着きを感じる。

　この銅燈籠の銘文には「御宝前辻燈籠寛文丙午暦十二月吉祥日、冶工津之住前但馬守次男、辻弥三右衛門尉藤原玄種」とあり、角鋳物師辻玄種＜くろたね＞によって寛文6年（1666）に造られた。

　なお、この鋳物師辻玄種の祖父は、市内三宅町出身のお五山学僧で、「国家安康」の銘で知られる文英清韓が撰文した京都方広寺の大鐘の鋳造にも参加した人物でもある。

　伊奈冨神社は古くから西宮、大宮、三大神の三社からなり、東西500ｍにもおよぶ規模を誇った。この絵図は、縦97.3cm、横173.6cmの紙本に、着色でその神域を描いたものである。16世紀の制作と考えられる。左から西宮、大宮、三大神の順で描かれ、三大神の右側には隣接する神宮寺の伽藍が描かれる。また、画面下方には県名勝「七島の池」の外、稲生城の砦が描かれている。この絵画は、室町時代後期における三社神宮寺および稲生城の状況をつぶさに伝える資料として、貴重である。

　式内酒井神社は郡山大明神とも称し、伊奈冨神社との関係も深く、稲生新社といわれたこともある。同社の文書は平安末期の保延5年（1139）を最古とし、室町時代に及ぶ20通が指定されている。

　内容は社領や神事に関するもの、在地豪族の動静を知りえるものもある。保延5年の下文は、この社も稲生社と同じく三社に分かれていて、それぞれに1反の田が栗真庄より寄進されたことを示す。〔稲生〕郡山〔新〕宮に欠字（〔 〕括弧）があるのは、稲生社の新宮にこだわった神主らの作為であろう。

　文書を時代別にすると、平安1、鎌倉5、室町10、無年紀ながら鎌倉～室町と推定されるもの4、計20点である。

　巻子仕立てであるが、県内中世文書として貴重な資料である。

　同社には紙本史料は乏しいが、棟札その他の文化財は豊富で、棟札も応永15年（1408）を最古として、江戸時代、明治初年（1868）にかけての73枚が県文化財に指定されている。

　形状はほとんど上端を駒形とし、檜板に墨書したものである。当社の歴史、付近豪族、特に稲生氏の入国時期、分部氏、長野氏、紀州藩主と支配者の推移をうかがうことができる。

　応永の棟札は当社三大神造営のものであるが、長禄元年（1457）、文明16年（1484）の棟札には稲生地頭としての和田氏の名が見え、一般に（『伊勢名勝志』）その入国は大永年中（1521～28）とされているのより古いことが分かる。

　また、神仏習合思想を示すものとして文明期の棟札に薬師・地蔵安置するとある。

　もと蒲川の西岸、東海道の両側に榎＜えのき＞が植えられていたことが昭和11年（1936）発行の『神戸平原地方郷土史』の写真で判る。通称石薬師の一里塚といい、江戸寄りには四日市市采女＜うねめ＞町の坂を上った所に采女の一里塚があり、京寄りには、庄野宿の西、中冨田町の入り口に一里塚があった。昭和35年（1960）の伊勢湾台風で榎も折れ、終戦後北側にその根元だけが残っていたが、台風などで全く消滅したので、昭和52年（1977）南側に榎の若木を植え、「史蹟石薬師の一里塚趾」の碑を建てて保存を図っている。

　日本武尊＜やまとたけるのみこと＞の御陵といわれ、東征の帰途ここでなくなった尊を塚を造り葬ったところ、白鳥となって大和をさして飛び去ったという伝説にもとづく古墳である。

　かつては円墳と考えられていたが、発掘調査により5世紀前半に遡る帆立貝式古墳であることがわかった。墳丘部の全長は78mで、基壇・溝条遺構を含めた全長は約90mに及ぶ。墳丘には葺石を伴い、円筒埴輪のほか、朝顔形、蓋（きぬがさ）形、盾形、壺形埴輪が出土している。

　本居宣長は『古事記伝』で、この古墳を尊の能褒野＜のぼの＞陵の有力候補としてあげている。

　隣接する加佐登神社は日本武尊を主神とし、尊が置いていかれた笠にちなんで『笠殿⇒加佐登』になったと伝えられている。

　この付近には、そのほかにも尊の冠・衣装を祀ったと伝える、宝冠塚、宝装塚や、父景行天皇が尊のあとを弔＜とむら＞うため東国を巡り、その帰途この地に至り、しばらく滞在したといわれる綺宮＜かんはたのみや＞（加佐登町字綺宮崎＜きのみやさき＞など尊の伝説にちなんだ古墳や伝承地が多い。

　南北朝時代、神戸氏は西条の南にある沢城を本拠としたが、4代具盛＜とももり＞の天文年中（1550年前後）神戸に築城して移ったと言われる。一説には6代利盛の弘治元年（1555）ともいう。いずれにせよ、神戸城への移転は1550年代初めである。当時の規模は分からないが、天守台のある土塁でかこまれた区域が本丸であったと思われる。その後、織田信長の三男信孝＜のぶたか＞が神戸家の養子となり、天正8年（1580）ここに五重の天守閣を築き、北勢地方に威風を誇った。

　しかし、天守閣は、信孝没後の文禄4年（1595）秀吉によって解体され、桑名城に移された。この地にあることわずか15年、あとは石垣だけが残り、当時の面影をとどめている。付近から金箔塗りの軒平瓦が出土し、安土・桃山時代の豪華の風がしのばれる。石垣は野面積＜のづらづ＞みという方法で積まれている。石材が不足したのか、墓石、灯籠石が混じり、中には「文永8年（1271）」の年号が入った格狭間＜こうざま＞や「明本・癸亥」とある光明真言碑の一部がある。

　神戸藩ではもと藩祖忠統の古文辞派の影響もあったが、幕府の寛政異学の禁により、朱子学に統一されることになった。それを機会に、従来二の丸御用屋敷にあった学校を拡張して、教倫堂と改めた。これには藩儒長野豊山＜ほうざん＞（潜）の参画が大きかった。これより経書の古注を廃して、朱子の新注を用いることとなった。

　ここでは儒学の講座の外、武道も行われた。前記豊山の他、神戸録の著者沢熊山＜ゆうざん＞も有名であった。この藩校では、小谷秋水、服部松渓、川村竹軒等が輩出した。敷地約2,800m²、大部分は神戸高校運動場の一部、宅地などになっている。楠の大樹の下に「史跡教倫堂跡」の碑が建っている。

　伊勢街道神戸宿の北の入口（旧常磐町付近）の上り坂の所に、城下町の防禦・治安のために設けられた。道の両側に石垣と土塁を築き、柵を設けて夜間の交通を禁止した。

　明治2年神戸藩と津藩が藩領境界を決定した時の絵図（須賀町松林嘉熙氏蔵）には鉄製らしい柵が見える。現在の両側の石垣には、これを支えたと思われる溝の跡がある。

　設置年代は不明であるが、恐らく江戸時代末期と思われる。なお神戸宿南東の出口、幸橋の袂にも柵が設けられていた。

ー遺構の規模ー
東側 石垣高さ3m～1m 幅4m 西側 石垣高さ2.5m～0.2ｍ 幅12m
東側 土塁長さ30ｍ 幅4ｍ～3ｍ 西側 土塁長さ50ｍ 幅12ｍ～5ｍ

　伊奈冨神社境内からその裏手の丘陵にかけて、紫つつじ（和名・コバノミツバツツジ）が群生している。樹齢が古く、高さ3ｍ余に及ぶものが無数にあって、四月上旬から中旬にかけては、紫雲がたなびくような景観を呈する。

　社伝では平安時代の初め、弘法大師によって造られたとされるが、その様式から見て更に古い古代の神苑と考えられる。

　この庭は自然湧水で、池の中には島が7個あるので「七島の池」ともいわれ、参道の左側にあって東西約70ｍ、南北約15ｍ、水深30～70cmに及んでいる。島は西より2番目が最も大きく、コンクリートの橋がかけられ、小さな祠跡がある。室町時代の作とされる「稲生村三社絵図」にも描かれている。

　日本最古の「七島池庭園」として、価値も高い。

　蒲桜は、御曹子社＜おんぞうししゃ＞（石薬師町にある大木神社の末社）の所有である。

　伝説によれば、寿永＜じゅえい＞（1182～84）の頃、蒲冠者＜がまのかじゃ＞源範頼が平家追討のため、西へ向う途中で、石薬師寺に詣でて武運を祈願し、戦運を占うために、鞭にしていた桜の枝を地面に逆さに挿して、「我が願い叶いなば、汝地に生きよ」と言って去ったが、活着し生長したのがこの蒲桜であるという。範頼は源頼朝の弟で、蒲冠者と呼ばれていたので、その名が桜につけられたと言われている。また、鞭＜むち＞にしていた桜の枝を逆さに挿したのが、芽生えたところから「逆桜＜さかざくら＞」の俗称がある。

　この桜は、ヤマザクラの一変種として植物学上からも珍しい。現在は大小の２株に分かれて、共に中心部が朽ち、いずれも根元から6本に分かれている。樹高は約8ｍある。2本の樹勢は、多少衰えた感じはあるが、毎年よく開花している。

　国府町西の城戸の慶運寺より東へ約50ｍ、宅地北東側の裏庭の一角にある。このヒイラギは、かつては垣根越しに抜き出ていて、樹高8ｍ、幹の太さは目通り1ｍ、根元の周りは2.4ｍ、ヒイラギとしては珍しい大木であった。
しかし、樹勢がすっかり衰えて、上部から枯れ始めたため、地上60cmのところで伐採した。

　普通ヒイラギの葉にはとげがあるが、老木になるにしたがってとげが無くなり全縁葉＜ぜんえんよう＞が多くなる。このヒイラギは、今の世代のものも、ほとんどが全縁葉で、ヒイラギと言っても気づく人は少ない。

　入道岳は鈴鹿山系の野登山と鎌ヶ岳の中間にあり、標高906ｍの雄大な山である。入道岳の登山道の一つである椿大神社裏の林道を、鍋川に沿って登り、堰堤の上流の川床を斜めに北から南へ横切って二本松尾根を登ると、樹高6ｍ前後、直径30cm内外のアセビの樹海に入る。アセビの低木林の中に入ると、前方に続く登山道が見えるだけで、一面アセビの群落で見事なものである。この登山道ではイヌツゲはあまり見ることはできないが、中腹で山道の右側に幹の太さ約2m程の巨木に出会う。

　アセビの群落帯をくぐり抜けて頂上近くなると群落帯が切れて草原に変わる。草原の中にも高さ40～50cm程のアセビが点在している。

　頂上付近から南東斜面の山肌を見下ろすと、標高700ｍの付近までアセビを主とした常緑広葉樹の低木林を眺めることが出来る。

　クスノキは、昔から神社等に植えられている。樹齢1000年をこえるといわれる長太の大クスは、近鉄名古屋線の長太の浦駅と箕田駅の中程で、西方に広がる田園の中に、ひときわ高くそびえている巨木が車窓から見える。昔は、この木の下に大木神社があったが、神社合祀で大木神社は他に移り、クスノキだけが取り残された。大クスの根元に、大木神社跡を示す「式内大木神社」の石柱があり、参拝に訪れる人も多い。

　樹高は約26.5ｍ、幹の太さは9.1ｍ。枝の広がりは東西26ｍ、南北に28ｍあり、生命力と迫力、そして霊気さえ感じる。

　伊勢湾台風以前の枝ぶりは、洋傘を広げたように左右対称の美しい樹冠であったが、台風によって東側の枝が特に被害を受け、往年の姿を見ることはできなくなったが、大くす保存会による樹勢の回復が図られている。

　小岐須の屏風岩は、御幣川の上流の小岐須渓谷にある。この渓谷は、北の入道岳、南の野登山等の水を集めて、東に流れる渓谷である。

　小岐須町のバス停から約3kmの所に、天然記念物の屏風岩があり、その上流にキャンプ場がある。

　屏風岩への道案内は、駐車場と屏風岩へ下りる地点の2か所にある。「屏風岩左」の矢印に従って脇道を下りると、間もなく渓谷の上を渡る吊橋に出る。吊橋の上から見る屏風岩は、その名のごとく侵食された結晶質石灰岩の広い岸壁で、白く美しい岩肌と蒼い淵がよく調和している。

　屏風岩は、石灰岩が河食作用によって屏風のように切り立った奇岩で、高さ最大約30ｍ、長さ約130ｍにも達している。屏風岩から石大神＜しゃくだいじん＞の辺りまでは接触変成岩で、石灰岩は花崗岩の貫入のために熱変質を受けて、白色粒状の結晶質石灰岩（大理石）となっている。

　庄野町の旧東海道より、約50ｍ西へ入ったところに川俣神社がある。本殿の右手に1本の巨木が見える。これが川俣神社のスダジイである。太い樹幹には注連縄＜しめなわ＞が張られ、樹幹に近寄らないように周りには柵が施されていて、御神木として大切に保護されている。この樹の高さは約14ｍ、茎の周りは5.5m。美しく盛り上がった壮大な樹冠は、東西に18.6ｍ、南北に15.5mと広く張り出した枝は、手の届くほど低く、樹下には木もれ日も出来ないほど葉が繁茂し、樹勢は旺盛である。

　アイナシは、自生種のイヌナシと栽培種のナシとの中間種で、その種子はほとんど発芽しない。果実はイヌナシより大きく、直径は2～3cmほどで、花は多少大きい。葉は両方の中間で卵形である。植物学上非常に珍しく貴重なものである。このアイナシは、昭和46年8月7日に発見された。樹高は11m、樹幹の周りは0.78ｍ。

　国道23号線西玉垣町の信号を西へ約200ｍ入った左側に広場がある。広場の中央部に地蔵堂があり、そのすぐそばの老松が地蔵大松である。地蔵大松は、クロマツで樹高が約20ｍ。幹の太さは、地上から1.3ｍの所で6.7ｍ。枝の張りは、東西に約32ｍ、南北に約30ｍもある見事な巨木である。

　御弊＜おんべ＞川の上流、小岐須渓谷に沿いに巨大な錐状の地形を望むことができる。この特異な地形は断層によって形成された断層微地形「ケルンバット（盛り上がり）」と呼ばれている。

　鈴鹿山脈にはケルンバットが点在しているが、石大神は他のケルンバットに比べて急峻で規模は大きい。

　特異な地形のため古代から信仰の対象となり、式内社の石＜いわ＞神社に比定されている。

　この辺りの地質は主に石灰岩からなり、泥岩と互層によって構成され、付近からは良質の石灰岩を多く産出している。

　「稲生の獅子舞」とよばれ、3年に1度、即ち丑・辰・未・戌の年の2月上旬から4月中旬の間、伊奈冨神社を中心に稲生町内各地区の集会所や寺院で行われる。

　獅子は大宮・西宮・三大神・菩薩堂の4頭＜かしら＞が一緒に舞う。舞はだんちょ・中起こし・扇の舞・紙扇＜かみおおぎ＞・鳥とび・花の舞・起こし舞の7曲の他、鳥とびと花の舞の間に湯立ての模倣をする「おいたて」が行われたり、塩屋地区では田遊びが行われる。舞に携わる者を神役＜じんやく＞といい、神職１名・御先＜おさき＞4名・御頭＜おかしら＞4名・後舞＜あとまい＞4名・口取＜くちとり＞4名・笛2名・太鼓1名、合計20名で行う。昭和63年に保存会が結成されるまでは、主に社家＜しゃけ＞とよぶ神社に縁故のある家が伝えてきた。江戸時代には北勢から中勢にかけて回檀＜かいだん＞していたという。なお毎年1月15日の御鍬祭には1頭の舞が行われる。

　伊奈冨神社と同様3年に1度、2月上旬から春祭の行われる4月中旬まで椿大神社を中心に山本町とその周辺で舞う。また、毎年2月21日の厄除大祭には神社で行われる。

　獅子は1頭で、笛・鼓・太鼓の囃しにより舞衣の中に御頭と後舞の入った獅子を鶏冠と鼻高の面をつけた口取が簓＜ささら＞や扇であやす。舞には四方ざし・起こし舞・扇の舞・後起こしの舞・花の舞の5曲と口取による湯の花（湯立て）や後舞による子獅子の舞がある。舞ぶりは稲生の獅子舞に比べると万事派手である。

　獅子舞は吉備大臣が椿の木に彫ったものという社伝はあるが起源は不明である。近世以降、今日まで鈴鹿山脈の山麓づたいに北勢を回檀＜かいだん＞しており、各地に山本流としてその技を伝えている。

　毎年8月4日の夕刻、三日市二丁目の如来寺と太子寺を中心に念仏を唱えながら町内の各所を巡る念仏芸能をいう。

　「オンナイ」の由来は延慶3年（1310）8月4日、親鸞聖人の高弟顕智上人が、この地の南端「一ツ橋」を最後にその姿が見えなくなったので、村人らが念仏を唱えながら捜し歩いたが、ついに行方がわからなかったと伝えている。つまり「御身が無い」の音韻が変化して「オンナイ」になったといわれる。

　行事は三日市の人々（男性）が浴衣がけに「四日講」の文字を染め抜いた肩衣＜かたぎぬ＞と菅笠＜すげがさ＞姿で如来寺の境内に集まる。西組と東組に分かれて行列をつくり、それぞれ番傘の周囲に幕と飾り物を垂らした傘ぼこを灯籠を持ち、鉦＜かね＞をたたいて哀調をおびたオンナイ念仏を唱えて町内を巡り歩く。歌詞は西組に22番、東組に28番が伝えられ、それぞれ古い語法が残っている。

　もと若宮八幡社と称した。別に清龍寺門前に大宝殿があり、明治以降江島神社と改称、同42年これを合祀して、江島若宮八幡社となった。この神社の拝殿には、多数の絵馬が掲げられているが、うち江戸時代だけの71面が文化財に指定されている。

　時代は承応元年（1652）に始まり、江戸初期寛文期の絵馬が多い。形式は杉板や桧板に直接描いたものや、紙に描いて、板に張りつけたものなどさまざまである。多くは白子回船業者が、航海の安全・商売繁盛を祈願して奉納したもので、図がらには七福神・武者・馬などのほか、町絵図・回船図などがあり、白子の町や港の様子がしのばれる史料として価値が高い。

　白子の勝速日神社の祭礼である白子屋台行事の屋台を収納する屋台蔵から発見された。木綿の反物に朝鮮通信使の図柄が描かれている。幅約120cm、長さ約9ｍ。

　桁行三間、梁間三間、入母屋造、桟瓦葺＜さんがわらぶき＞の小規模な建築で、腰は下見板張り、腰上は連子格子とし、軒は波状に塗込める。明治初期に神戸城より移築し、蓮花寺の鐘楼としたもので、本来は城の太鼓櫓であった。神戸城関連の建築はこの旧太鼓櫓の他は旧大手門（現四日市市顕正寺山門）が現存するのみで、当建築は鈴鹿市内に残る唯一の遺構として貴重である。昭和61年に修理が実施された。

　元禄13年（1700）建立。入母屋造、錣＜しころ＞葺の本瓦葺。桁行十一間、梁間九間の大型本堂で、正面に三間の向拝が付く。悟真寺は浄土宗の中本山格の寺院で、内部の構成も浄土寺院独特のものとなり、縦長の内陣を両脇の位牌間、脇間と前面の外陣で囲み、正＜まさ＞側三間に幅広い広縁をめぐらす。内陣と位牌間は床が一段上がって上段となり、脇間・外陣との間に結界＜けっかい＞の中敷居が設けられる。この種の例で江戸時代中期に遡るものは少なく、貴重である。昭和59～60年（1984～1985）に修理が実施された。

　庄野宿は東海道45番目の宿場として江戸時代から栄え、今も街道沿いには往時をしのぶ古い建物がいくつか残されている。当建造物は、主屋・土蔵ともに大規模な改造は認められない。主屋の土間回り、仏間回りに内装の変更や改造がなされていたが、当初状況への復原をし、庄野宿資料館として公開している。鈴鹿市域における東海道宿場町で江戸末期の大型町屋建築として貴重である。嘉永7年（1854）の棟札が保管されており、主屋の建築年代を示す資料と考えられている。

　像高88.5cm、檜材の一木造。肉髻珠＜にっけいしゅ＞と白毫＜びゃくごう＞に水晶を入れている。彫眼。右手は施無畏印＜せむいいん＞を結び、左手は与願印＜よがんいん＞を結ぶ。胴部に量感を持っているが結跏趺坐＜けっかふざ＞の膝はやや薄い。後年補修されたようで、面部等、部分的にかなりの彫り直しがある。像底部に板が張られていて内部構造は窺えないが、全体的にみて平安時代後期の作と考えられる。両脇に、ほぼ同期の大日如来坐像と観世音菩薩坐像が置かれている。

　寺伝では、神亀年間に僧泰澄が霊光を放つ巨石をみて一宇＜いちう＞の草堂で覆い、後、弘法大師がこれに薬師如来を刻んで開眼供養をしたという。

　花崗岩に浅い線彫りで像をあらわす。髪は長く垂れたようにみえるが耳の輪郭があいまいになったためである。頬はふくよかであり、一見、女神像を思わせる。右手は阿弥陀如来の来迎印のようなかたちであるが、左手ははっきりせず、薬壺も見られない。肉髻＜にっけい＞の部分が高く、顔の肉付きも豊かである。後世の彫り直しと思われる部分もあり、年代判定は難しい。平安時代後期の作であろうか。像高190cm、肩幅40cmである。

　平素は秘仏であるが、毎年12月20日頃には開扉され、「おすす払い」が檀家の人々によって行われる。

　通肩＜つうけん＞。衣文＜えもん＞の彫りは浅く、白毫＜びゃくごう＞も衣文の細部も墨描きである。

　肉髻＜にっけい＞、両肩、下半身、背面に鑿＜のみ＞跡があり、関東を中心に美濃付近にまで及んだという「鉈彫＜なたぼり＞」に近い作風である。

　右手は薬指を少し曲げて施無畏印＜せむいいん＞を結ぶ。左手は下げて薬壺を持つ。顔は伏目で円満優雅の相がうかがわれる。彫眼。螺髪＜らほつ＞は作らない。

　像高100cm、欅＜けやき＞材の一木造。平安時代後期の作である。

　寺伝では美濃国から鈴鹿市南部の秋永町付近に運ばれて祀られていたが、さらに、明治維新の際、悟真寺に移されたという。

　左手を曲げて施無畏印＜せむいいん＞を結び、右手は下げて与願印＜よがんいん＞を結ぶ。一般はこの逆が多い。頭に天冠台を載せ、髻＜まげ＞は低い。条帛＜じょうはく＞を懸け、天衣をまとう。瓔珞＜ようらく＞、臂釧＜ひせん＞、腕釧＜わんせん＞はない。衣文の彫りは浅く、すらりとした姿勢である。彫眼。眉は細く長いが、いくぶん厳しい感じを受ける。

　全面に胡粉が施されているが彩色は剥落している。台座には赤、黒の線で美しい連弁が描かれていて、藤原期の特徴を示す。

　左肩で矧＜は＞ぐが後補かも知れない。天衣は左右とも途中で失われている。

　像高100cm、檜材の一木造り。平安時代後期の作である。

　来迎印を結ぶ阿弥陀像で法衣は両肩にかかり、やや伏目がちの円満な顔である。彫眼。白毫＜びゃくごう＞には水晶を入れ、肉髻珠＜にっけいしゅ＞には黒曜石を入れている。全面に漆箔を施し、腹部以下に多く残る。衣文＜えもん＞、体軀のつり合いなどに藤原時代の特徴が出ている。

　龍源寺境内に建つ地蔵堂の本尊。像高31.8cm、檜材の寄木造で、玉眼を嵌入する。形状は円頂、白毫相をあらわし、左手で宝珠を、右手で錫杖＜しゃくじょう＞を執る。法衣を着け、左足を踏み下げて坐る。

　像底部に嘉慶2年（1388）の墨書銘があり、南北朝時代末期の作であることがわかる。市内の在銘仏像の古例として注目される。

　摂取院本尊。像高98cm。材質はヒノキか。寄木造りで耳後ろで矧ぎ、両肩材を寄せる。表面は漆箔を施す。螺髪は粒上に彫出し、髪際で33を数える。平安時代後期（12世紀）の穏やかな作風を示す。

　龍光寺に客仏として安置される阿弥陀如来立像。像高87cmの大きさで一木造。平安時代後期の作。

　深藕寺境内に建つ観音堂の本尊。像高1.6m余りのほぼ等身大の大きさで、一木造。平安時代後期の作。毎年4月17日の夜に開扉される。

　髻を結い、髻頂に仏面、地髪部に頭上面をいただく。天冠台彫出。正面に化仏立像をあらわす。毛髪は天冠台下をまばら彫、その他を平彫とする。白毫をあらわし、頚部に三道彫出。条帛・天衣をかけ、裳（折り返し付き）を着して腰布を巻く。手は、合掌手・宝鉢手ほか脇手両側二列で、四十二臂の姿にあらわす。両足を揃えて蓮華座上に立つ。材質はヒノキか。

　神戸城二之丸の東北隅に神戸城唯一の二重櫓（現在神戸高校正門南西）があり、この櫓に上げられていた鯱一対の一つ。

　廃藩後、この鯱は各地を転々とし、昭和11年4月東京で売品として陳列されているのを神戸の旧士族会が発見し買いあげ、その後、市の所蔵となり、現在一重櫓の鯱とともに、鈴鹿市役所本庁1階に展示されている。

　この鯱は、高さ1.3ｍ、重さ150kgの青銅製で、頭部に「勢州神戸城主本多伊予守忠統延享四年（1747）丁卯六月築之」、口辺に、「武州江戸神田住御鋳物大工田村庄右衛門尉藤原安通作」の銘文がそれぞれある。なお、もう一基は今日不明である。

　観音寺は浄土宗で知恩院派に属し、神戸城主本多家の菩提寺として知られる。この光明真言板碑は本堂西側の庭園内に建っており、高さ1ｍ、幅38cm、高さ26cmの砂岩質凝灰岩に種子＜しゅじ＞刻まれ、その下に三行にわたり梵字の光明真言が彫られている。その陀羅尼文の下方に「元応二庚申（1320）、明本作」とあり、市内最古の石碑である。

　僧明本なる人物は、この地方に住した僧と思われるが、神戸城天守台の石組にも「癸亥（1323）明本」名の真言碑断片がある。

　板碑とは薄い石板状の供養碑をいい、寺伝によると、もとこの板碑の上には五輪塔があったとされるが、上部は近世手洗鉢に改造されている。

　悟真寺は浄土宗で知恩院派に属し、開創は応永18年（1411）。現在の寺の周囲は伊賀堀と称する堀に囲まれる広大な境内地を有する。

　この光明真言碑は、昭和49年（1974）北門付近の墓の地中より発見されたものである。高さ80cm、幅48cm、厚さ20cm以上の砂岩質で背面は板碑様式ではなく自然石に種子＜しゅじ＞が刻まれ、その下に五行にわたり梵字の光明真言が彫られている。その陀羅尼文の中央下に「嘉暦四（1329）、明本」とある。

　市内に三基発見されている明本銘の真言碑の中では最も完全なものである。

　神戸城三之丸の大手門（現在神戸高校正門東側）の東脇に一重櫓（隅櫓）があり、この櫓にあげられていた鯱一対がある。

　この鯱も、廃藩後行方不明であったが、その後山口県立博物館に保管されていることが判明し、平成元年、同博物館より返還された。

　型、銘文とも二重櫓の鯱と同一で、高さは1.3ｍだが、重さは101kgと軽い。

　画面中央に「南无不可思議光如来＜なむふかしぎこうにょらい＞」の九字の名号が書かれ、そこから34条の光明が四方にはなたれる。右側には「帰命盡十万无㝵光如来」の十字名号と釈迦、聖徳太子十六歳孝養像とその六臣及び源信以下の九高僧、左側には「南無阿弥陀仏」の六字名号と阿弥陀、天竺震旦の十尊を描く。

　浄土真宗では、仏像や仏画の代わりに阿弥陀仏の名号を礼拝することが重視され、九字のほか、八字、十字など様々な名号本尊が数多く制作された。本図もそうしたもののひとつである。掛幅装で、絹本着色＜けんぽんちゃくしょく＞、縦123cm、横97cm、南北朝時代の制作と考えられる。

　画面上部に聖徳太子が描かれる。太子は真宗通有の十六歳孝養立像で描かれ、恵慈、学哥、蘇我馬子、小野妹子の四臣を従える。下部には源信のほか、源空、親鸞、顕智、真仏など真宗が先徳として崇敬する高僧が描かれる。特に真宗高田派二世真仏（1209～1258）が描かれていることからみて、初期の高田派教団が用いていたものとみられ、資料として貴重である。

　掛幅装で、絹本着色＜けんぽんちゃくしょく＞、縦96.7cm、横38.0cm。

　南北朝時代から室町時代初期にかけての作と考えられる。

　ロシア漂流10年の後、帰国した神昌丸乗組員3人のうち、小市は根室で死亡。磯吉・光太夫は江戸に軟禁状態の生活を送り、磯吉は帰省を許されたが、光太夫は一生故郷の地を踏まなかったと考えられていた。しかし、昭和61年（1986）地元南若松町で一括発見された文書によりこの定説は破られた。この中には、幕府よりの達し、小市遺品目録、磯吉の帰郷文書も含まれ、資料的価値が高い。

　2種（3通）の伊勢国太閤検地関係史料。近年の太閤検地研究で問われる太閤検地の実施状況を具体的に示す数少ない貴重な史料であり、鈴鹿市内、もしくは伊勢国の太閤検地を理解するだけではなく、まさに全国に通じる太閤検地の意義をも明確にする貴重な史料と言える。豊臣秀吉の支配権力が、領土的には日本の隅々まで、身分的には村方の百姓まで示される行為であったことが確認できる。

　神戸城主本多忠統＜ただむね＞（1691～1757）は猗蘭＜いらん＞とも号して、荻生徂徠＜おぎゅそらい＞（古文辞学派）の高弟としても知られる文人大名である。

　三教堂＜さんこうどう＞の額は、その忠統が江戸藩邸に置いた成章館に対して神戸藩邸に設置した藩校名で、縦76.5cm、横151cmの大額である。その筆致は堂々とした風格ある楷書で、左上方に、忠統の別号の一つ、「大乾」の落款＜らっかん＞がある。

　三教とは、神道、儒教、仏教をいい、享保17年（1732）から寛延3年（1750）の間の書である。現在、郷土資料室に保管されている。

　尚、忠統には、徂徠の「徂徠集」に比した大名版の「猗蘭台集」という漢詩文集があり、文教に意を注いだ。

　體用山は青龍寺の山号で、筆者朴徳源は、宝暦14（1764）年、第十一次朝鮮通信使に随行した小通詞。朝鮮通信使関連の書跡は東海地方に数点残されているが、いずれも板刻扁額である。この書跡は原本と想定される肉筆の墨書で、唯一知られている異例である。紙継の状態や落款印章の配置は、後世になって横書きに表具された可能性を示唆している。

　弥生時代前期から後期にわたる大集落であった上箕田遺跡から出土した土器。鹿とそれを射る人物の線刻画がある壷や銅鐸を模した小型の土製鐸などが出土している。

　この鏡は秋永町字赤郷＜あかごう＞にあった「アカゴ塚」と呼ばれた古墳から出土した。位置は現在殉国碑のあるあたりで、もとは台地で畑になっていたらしい。明治11年（1878）10月に発見されたが、墳形や他の副葬品は何も知られていない。鏡は発掘の際についた傷か、一部が欠けている。径21.57cm。

　鏡の縁の断面が三角形をしていることからこの名がある。文様は六個の乳の間に三神と三獣を配し、外側に二重の波状文と鋸歯文＜きょしもん＞をめぐらしている。この鏡と同型で造られた鏡が福岡県宗像郡大島村沖津宮で出土している。

　この種類の鏡が注目されるのは、3世紀の中国の魏の年号銘があるものがあり、邪馬台国の女王卑弥呼が魏から下賜された鏡であるという説。さらに、この鏡が畿内に多いところから、畿内政権がその支配下に入った首長にその印として配布したとの説があるからである。この鏡を出土した古墳は4世紀代と考えられ、畿内政権と密接な関係を持った有力首長がいたことを示している。

　鈴鹿川の支流である椎山川左岸の台地南斜面に位置する椎山中世墓は12世紀の後半から16世紀の初頭にかけて築かれた集団墓である。階段状に削りだした墓域に、瀬戸の瓶子や常滑の壺といった陶器を利用した蔵骨器や石仏などが出土した。

　法量は長さ392mm・幅25.3mm・厚さ22.3mmで、石材は片岩である。直刀形で、三帯の文様帯を有する完形資料である。三重県内ではいくつかの遺跡から出土があるが、完形資料は少ない

　当資料は「沈線文系土器」と呼ばれ、東海・北陸地方を中心に分布し、北陸地方にその淵源が求められている。東海地方においてこの種の土器は一遺跡にごく少量認められ、時期は弥生時代前期から中期に及ぶ。当資料は弥生時代前期の新しい段階に属するもので、ほぼ全形を留める小型壺である。

　宿の勘定差引帳や請払勘定帳等の問屋場史料、本陣脇本陣旅籠の見取り図や助郷関係資料など宿場資料が大量に残る。また、天和年間の高札や明治以降の村方資料など含む。宿場や村政の状況を示す貴重な資料群である。

　昭和58年（1983）、寺尾家より市に寄贈された。型紙業が紀州藩保護のもとに繁栄したことを示す古文書は、型屋の沿革、通り切手、出稼国別帳、厳重な株仲間の規定、値段定帳、人馬駄賃帳＜じんばだちんちょう＞及び紀州藩への冥加金＜みょうがきん＞奉納の文書等、おおむね18世紀中葉の宝暦以降、明治初年に及んでいる。他に寺尾家が扱った型紙や見本帳、図案集などを含む。

　古墳は、王塚の南約50ｍ、市道の東側にある。小さな前方後円墳であるが、整然と陪塚＜ばいちょう＞が取巻いている。主墳は全長30.5ｍ、前方部が後円部より幅が狭く、高さも低いことは、王塚古墳より時代が古いものといえる。5世紀中頃以降に築造されたこの地の豪族の墳墓と思われる。

　後円部中央から人物埴輪（女子の前頭部）や、家形埴輪などが発見されている。

　主墳は周溝に囲まれ、その外側に6・7・8・9・10号の小円墳5基が配置されている。それぞれ径10～15ｍ、高さ1ｍ前後から1.5ｍまでである。主墳は小さいが、陪塚をふくめた外周の規模は王塚古墳の外堤と一致する（『ふびと』32号）。方向は同じで、南西に面しているこの5号墳から王塚へと支配者が交替・発展していったのであろうか。

　南若松村の船頭大黒屋光太夫以下17名の乗組んだ神昌丸は、天明2年（1782）12月白子浦を出帆。江戸に向かう途中遠州灘で暴風に遭い、遠くアリューシャン列島に流された。郷里では全員死亡と考えられ、三回忌にあたる天明4年、同船の所属する江戸大伝馬町の長谷川氏二氏が施主となって、供養のためこの塔を建てた。

　碑の形状は総高130cm、下部台石70×62cm塔身砂岩質。正面に南無阿弥陀仏、釈久味霊、俗名光太夫とあるが、磨耗進み判読困難。左側面に遭難経過、右側面に乗組員名、裏面に施主名、建立年月を記す。

　シベリア10年漂白ののち、根室まで帰った3人のうち、1名は同地で死亡、江戸に帰った光太夫・磯吉は一時帰省を許された。生きてこの供養等に詣でた時の両名の胸の中はどんなであったろうか。

　寺尾家は伊勢型紙の生産地である白子屈指の型紙商であった。敷地は広大で、主屋のほか、離れ、土蔵群、型紙関係の作業場などが配置されていたが、型紙生産に関連した敷地後半部は売却され、建物も失われた。現在は主屋、離れ二棟、土蔵、井戸館などを残している。主屋は江戸時代末期の建築と考えられ、切妻造平入、桟瓦葺＜さんがわらぶき＞で前面につし二階を持つ。伊勢型紙関係商家の具体的様相を示すものとして、また当地の町屋建築の代表例として重要である。平成7～8年度（1995～1996）に復原修理を実施し、伊勢型紙資料館として公開している。

　「白子組」直属の積荷問屋をつとめ、自ら廻船問屋も営み、白子廻船を統率した竹口家は、江戸時代の白子繁栄の象徴ともいえる存在である。

　中でも、6代目の竹口如林（宝永6（1709）年～寛政2（1790）年　冬々斎と号す）は、家業の傍ら華道・香道・茶の湯・俳諧を好み文雅の道でも広く世情に知られ、多くの文化人と交流した。妻は万古焼の祖である桑名の沼波弄山の妹。

　神戸城主本多家の菩提寺である観音寺境内にあり、二代藩主本多忠永の歿後その徳を称え建てられた石碑である。五代忠升の命を受けた神戸藩の儒者長野潜による撰文。

　大木神社の椎の森は、旧東海道、本町通りに建つ「大木神社一の鳥居」より西へ約200ｍ入ったところにあり、約1ヘクタールの境内全体が椎の森である。境内にはスギ・ヒノキ・アラカシ・サカキ・ソヨゴ・カクレミノ・ヤツデ等と椎の木とが混生して森を形成し、椎の木の枝が盛り上がって美しい森となっている。この森の代表的な椎の木を測ってみると樹高約18ｍ、幹周り1.8ｍある。このような大木で森を作っている。

　シイにはスダジイとツブラジイの種類がある。スダジイは、大きくなると樹皮は縦に裂目を生じ、実は細長い。ツブラジイの樹皮は平滑で、実は円形をしていることから、両者を見分けることができる。シイとは両者の総称であり、大木神社では両者が混在している。

　京新田は、深溝町の小字名で深溝より西約1km離れた集落である。

　キリシマは個人宅の庭園の一角にあり、高さは約3.5ｍ。根元より約25cm程の大枝が17本四方に張りだしている。

　キリシマは、ツツジ科の植物で、毎年5月上旬にまっかな小さい花が木全体に密生して咲く眺めは見事な物である。

　所有者の先祖が約300年ほど前に京都より当地に移住したそうで、このキリシマもその頃現在の地に植えられたようである。そのことから推定すれば、樹齢は約300年と考えられる。

　かんこ踊りは市内9か所に伝承されているが、広瀬町のかんこ踊りもそのひとつで、比較的古式をよく伝えている。毎年7月14日の天王祭と秋祭りに行われる。

　この踊りは町内の青年団が勤め、踊り子5人をはじめ歌方などが8～10人、笛が4～5人、法螺貝吹きが2人の合計20人程で行われる。服装は巴紋を染めた浴衣に黒の角帯＜かくおび＞を締め、手甲＜てっこう＞、襷＜たすき＞、紺足袋に草履をはき、頭には竹の総花をつけた花笠をかぶる。

　7月14日の夕刻になると、家族数のほおづき提灯を持った村人とともにかんこ踊りの行列が神明社境内へ練り込む。踊り場の中央には長い竿の中程に八角灯籠をつけ、その上部に蛇の目傘をつけたものを立てる。踊り子はそれを中心に同心円をつくり、お庭入り、新拍子、打上げ、牛若丸の4曲を五穀豊穣、村中安全を祈って勇壮に踊る。

　全国に数少ないという唐人おどりのひとつが東玉垣町に伝えられており、毎年4月第1日曜日の天王社の春祭りに、獅子舞とともに行われる。

　仮面をかぶり、唐人帽、唐人服でラッパ、シンバル、団扇を持った3人が活発な跳ね踊りをする。歌詞は「長歳哉＜ちょうせいや＞、変わらで祀る瑞垣の五穀成就と踊る唐人」で始まり、大部分が朝鮮語の田植え歌で、雨乞いの願いもこめられているとのことである。

　東玉垣町へ何時頃伝わったか不明である。昭和13年の記録によると、天王社から東安寺まで練り行列があり、その列順は壱萬度＜いちまんど＞・四神＜しじん＞・鉾・大祢宣・口取・御獅子・跡舞い・笛・太鼓・舞姫・笛・太鼓・御輿・御輿係・警護・台持ち・唐人・はやし連・屋形で行われ、唐人も行列に加わっていたことがわかる。神道行事と朝鮮式舞曲を巧みに交錯させた点、津の唐人おどりと同じく、朝鮮通信使と関係があったのかもしれない。

　北勢地方の鯨船行事は現在5ヶ所で伝承され、北長太町の鯨船行事もその一つで、飯野神社の秋祭に行われている。

　起源は不明であるが、明治初年（1968）には8月1日の天王祭に行われていたという。昭和41年を最後に長く途絶えていたが平成3年（1991）10月、25年ぶりに復活した。

　鯨船は木造漆塗で、長さ5.8ｍ、高さ2.4ｍ、幅1.5ｍとやや小振りではあるが、金箔や竜の彫刻が施されて鯨船としての体裁を具えている。鯨船上下歌に合わせながら鯨船を引き回し、歌が最高潮に達した時船上がりから踊り子が張り子の鯨めがけ、銛を放って仕留める。

　この行事は豊漁や富貴の象徴としての鯨を射止める予祝儀礼であるといわれる。

　古くは中戸の獅子舞として1年のうち農閑期の百数十日、四日市市高角から伊勢にかけての各地に出向いていたが、昭和30年に中絶。昭和56年に復活。獅子舞2頭で舞う。

　鈴鹿市内をはじめ北勢地域に29ヶ所伝承され、この地方における神楽獅子舞の中心をなしている・発生は江戸時代以前にさかのぼると見られ、古風な芸態を残している。

　勝速日神社の祭礼に用いる山車で、毎年春の祭礼日（4月中旬の土・日曜日）には、各町内に置かれている山車がこの神社に引き出される。合計4台で、西町・東町・中町・山中町の4自治会に属する。
いずれも木造2階屋形で、高さ約3.6ｍ、漆塗・金箔仕上げで、垂れ幕は豪華なつづれ織である。京都祇園祭の山車ほどの物ではないが、県下でも比を見ない立派なものである。

　江戸時代この町の裕福さを物語るものであろう。

　なお、屋形の上には額が掲げられ、各町内の額の文字は下記のとおりである。
山中町・・・「抽誠＜ちゅうせい＞」西町・・・「邀歓＜ようかん＞」中町・・・「豊饒＜ほうじょう＞」東町・・・「佻優＜ちょうゆう＞」

　旧北伊勢飛行場と近隣の航空機用施設とを結ぶ誘導路沿いに位置する。 北西と南東の２方向が開口し、最大幅側である北西の正面開口部には幅18.6ｍ、縦1.2ｍの庇が付けられている。

　大戦直後には、内部に天井近くまで土が詰まっていたとのことで、実際に供用される前に終戦を迎えたと考えられている。第二次世界大戦末期における中型規模の掩体の一事例。

　歌人、国学者の佐佐木信綱は明治5年（1872）に石薬師に生まれ、10年（1877）までの五年間をこの家で過ごした。主屋は切妻造平入、桟瓦葺＜さんがわらぶき＞の町屋で、正面、二階ともに細い格子を入れた仕舞屋の表構えを見せる。内部は土間に沿って二列に居室を配する。

　また、土蔵一棟がある。生家は市内和泉町に移築されていたが、昭和45年（1970）に旧地に再移築された。旧東海道沿いに建ち、主屋と土蔵は伝統的な意匠で宿場町の趣を残し、石薬師文庫閲覧所は洋風意匠を基調としている。これに隣接して佐佐木信綱資料館がある。

　同碑記は、文化13（1816）年、津藩主藤堂高兌による農地開発の一環として、津藩郡奉行吉田重麗が行った玉垣村の灌漑・開墾の経緯と様子を詳述した石碑である。

　碑記の本文は、縦27文字、横13行（内11字空）の計340文字が陰刻される。選者でもある吉田重麗は、漢学や儒学を津坂東陽に学び、藩主藤堂高兌の知遇を受け、藩政の改革に幾多の功績を残している。書は幕末の三筆の一人である市河米庵、石刻は江戸後期に活躍した名工、広瀬群鶴である。

　桜島の地名は、開墾によりため池を改修した折に、その池中の島に200株の桜を植樹し、その島を「桜島」と命名したことに由来し、その景観は文人らに愛されたといわれている。同碑は、桜島に建てられていたが、近代になって玉垣小学校内に移設、その後、昭和初期に桜島に戻されるが、昭和50年代後半の公園整備による池の埋め立てにより、現在地に移された。

　真宗高田派・専照寺に伝来する5,090冊の聖教類は、同寺の住持らが撰述、書写・蒐集したもので、鈴鹿市域の寺院における学問・教育・文化の実態を知る上で、貴重な蔵書群である。

　聖教類の多くは、第8世住持・法定上人と、第10世住持・行海上人らにより集積された。両上人は真宗高田派を代表する学僧であり、本山専修寺の教育機関である学寮の講師を務めた。

　専照寺に残された聖教類は、住持の教学活動の所産であるとともに、真宗高田派の学問体系の特質も表れている。書籍の中には一般に流布したものや、仏教関係以外の書物を含むが、全体として彼らの教養の諸相を示しており、近世・近代におけるこの地域の宗教者が有した「知の体系」が表れている。

　内容的な特質としては、余乗の聖教が多く含まれる点が挙げられる。余乗の聖教が真宗寺院に伝来することは決して一般的なことではなく、この蒐集のあり方自体が、高田派における学問・教学活動の実態を考える上で興味深いものである。

　須賀遺跡第5次調査において出土した大型の弥生土器壺である。同時代の一般的な壺と比べ巨大であること、朝日遺跡（愛知県清須市・名古屋市所在）出土の大型壺と類似していること等から、当時の流通や陶製技術を検討するうえで非常に有意義な資料である。

　木枯亭の亭号は俳人・山口誓子の「海に出て木枯帰るところなし」の句に因ん誓子により命名されたものであり、誓子は結核療養のために滞在した昭和23-28年の間、木枯亭で俳句の会を催していた。

　小規模ながら品格のある数寄屋風書院座敷であり、山口誓子を中核とするこの地域の文芸活動の象徴的な場として文化的な意義も高い。

　白子港の海運と伊勢街道を利用して干鰯を中心とした肥料や燃料、米などの商いを行ってきた明治時代中期の商家の家屋構成をよく示すものである。

　明治中期の整備されて以来、著しい改変はなく、一帯の歴史的景観を維持し、向上させるうえで大きく寄与するものとなっている。

　光太夫漂流の顛末をまとめた書物である。遭難した時の詳細・その後の地元の様子・光太夫帰国の報に接した地元の様子などを伝えていることに特徴があり、ほかの漂流記には見られないこの地域で神昌丸漂流事件がどう受け止められていたのかを示す貴重な資料である。

　光太夫からの聞き取り記録である「北槎聞略」に比べると質・量ともに及ぶべくもなく、誤記や錯誤も多々見られるが、数少ない磯吉からの聞書であり、また、公的記録では知りようもない神昌丸漂流事件がこの地域社会に与えた一面を知る事ができる資料として貴重である。

　根室まで帰国しながら亡くなった賄・小市の所持品は、妻のけんに下げ渡され、櫛、スプーン、ナイフ、きせる、靴など13点および銅貨3枚が現在も残されている。これらは、小市の「追善供養」と銘打って、各地に貸し出され人々に展覧された。